
TypeScriptのパフォーマンス改善
TypeScriptのパフォーマンス向上についての公式ドキュメントがあります。この記事では、「TypeScriptにおける速さとは何か」を理解し、その上でコンパイルの観点でパフォーマンスを向上させるための具体的な方法をまとめます。
公式のドキュメント
TypeScriptのGithubリポジトリにあるWikiを見に行くと、Debugging TypeScriptのセクションにPerformanceについてのドキュメントがあります。
今回はこのドキュメントを参考にしてして見ていきます。
TypeScriptにおける速さとは何か
ドキュメントには、TypeScriptにおける速さとは「より高速なコンパイルや編集が可能になる」ことを指していることが書かれています。
There are easy ways to configure TypeScript to ensure faster compilations and editing experiences.
-
コンパイル速度
TypeScriptはJavaScriptに型情報を追加した言語で、コードを実行するためにはJavaScriptへのコンパイルが必要です。このTypeScriptからJavaScriptへの変換速度をコンパイル速度と呼びます。ビルド時間に直接影響を与えるため、コンパイル速度は可能な限り短縮することが望まれます。 -
編集体験
編集体験とは、VSCodeなどのIDEやテキストエディターでコードを書く際の体験を指します。これらのツールを用いてTypeScriptを記述する際の型チェック、自動補完、リファクタリングなどの機能の動作速度は、TypeScriptのパフォーマンスに直結します。
ドキュメントではパフォーマンスを上げる方法がいくつか挙げられていますが、今回はコンパイルしやすいコードにするためのTipsを見ていきます。
型宣言にはtypeよりもinterfaceを使う
「typeとinterfaceのどちらを使うか」という議論が度々なされますが、TypeScript公式ではオブジェクト型に対するパフォーマンスの観点ではインターフェースを使うといいということが明言されています。 GoogleのTypeScriptのスタイルガイドでは、オブジェクト型はインターフェースを使用し、それ以外は型エイリアスで宣言することが推奨されているようです1。
typeを使った型宣言は型エイリアス(type alias
)と呼ばれます。この型エイリアスとインターフェースは基本的に似た動作をしますが、オブジェクト型を合成するときはこれらの宣言の仕方に違いがあります。
インターフェースの場合
extends
を使って以下のように宣言ができます。
interface Bar {
prop: string;
}
interface Baz {
anotherProp: number;
}
interface Foo extends Bar, Baz {
someProp: string;
}
このextends
を使った型の宣言は部分型(subtype
)と呼ばれ、「FooはBarとBazの部分型」ということになります。FooはBarとBazの全てのプロパティを持ちあわせ、かつsomePropというFooにしかないプロパティを持つ型になります。
型エイリアスの場合
&
を使って交差型(type aliases to intersections
)を作ることで型の合成が可能です。
type Bar = { prop: string };
type Baz = { anotherProp: number };
type Foo = Bar &
Baz & {
someProp: string;
};
この2つには以下のようなTypeScriptでの挙動の違いがあります。
- インターフェース:
- 同じプロパティがあった場合はそれを検出し、単一のフラットなオブジェクトを生成する(プロパティのオーバーライド)
- 無効な型があった場合はエラーを発生させる
- エラーの可能性が排除されたフラットなオブジェクトのプロパティに対してのみ型チェックが行われる
- 型関係がキャッシュされる
- 同じプロパティがあった場合はそれを検出し、単一のフラットなオブジェクトを生成する(プロパティのオーバーライド)
- 交差型:
- ただ各プロパティを再帰的にマージするだけで、never型が生成されることもある
- マージ結果がnever型などの無効な型であってもエラーは発生せず、型チェックは続行される
- 型関係がキャッシュされない
1に関して、交差型はプロパティの競合を許容し、never型という無効な型が発生してもエラーを出さずに型チェックを続けます。一方で、インターフェースは競合するプロパティがあった場合はそれを検出し、無効な型が発生した場合はエラーを出して型チェックを早期に終了します。
// 交差型
type A = {
prop: string;
props: {
someProp: string;
};
};
type B = {
prop: number;
props: {
anotherProp: number;
};
};
type C = A & B;
// Cのマージ結果
// 再帰的にマージを行うためpropsの中にsomePropとanotherPropが同時に存在する
// stringとnumberは互いに排他的なため、この型はnever型となる(エラーは発生しない)
type C = {
prop: never;
props: {
someProp: string;
anotherProp: number;
};
};
// インターフェース
interface IA {
prop: string;
props: {
someProp: string;
};
}
interface IB {
prop: number;
}
// プロパティの競合を検出しコンパイルエラーとなる
interface IC extends IA, IB {
// このpropsが優先され上書きされる
props: {
anotherProp: number;
};
}
より早い段階でエラーを発生させ、無駄な処理を行わないという点でインターフェースの方がより親切だということがわかります。
型注釈を使用する
型注釈を積極的に使用することでコンパイラの作業負担を大幅に減らすことができます。 型注釈とは以下のように変数やオブジェクトに対して型を指定して限定させるものです。
const numberOfHappy: number = 123;
型注釈をつけることで型推論によって行われる匿名型の解釈よりも宣言ファイルの読み書きにかかる時間を減らすことができます。
実際に型注釈がある場合とない場合でのコンパイル結果の違いを見てみます。
型注釈をつけない場合
まず、foo.ts
ファイルにResult
型とmakeRequest
という関数を定義します。そして同階層にbar.ts
ファイルを作成し、doStuff
関数を定義します。このduStuff関数には戻り値の型注釈をつけていません。
// foo.ts
export interface Result {
headers: any;
body: string;
}
export async function makeRequest(): Promise<Result> {
throw new Error('unimplemented');
}
// bar.ts
import { makeRequest } from './foo';
export function doStuff() {
return makeRequest();
}
これをpnpm tsc
などでコンパイルしてみます。
// foo.d.ts
export interface Result {
headers: unknown;
body: string;
}
export declare function makeRequest(): Promise<Result>;
// bar.d.ts
export declare function doStuff(): Promise<import('./foo').Result>;
このように型注釈をつけないとdoStuffの戻り値の型がPromise<import("./foo").Result>
となっています。importとなっていることから分かるようにTypeScriptでは別ファイルからResult型を取得しています。流れとしては次のようになっています。
- 参照したい型が現在のスコープ内で直接アクセス可能かどうかを確認(同じファイル内で定義された型やインポートされた型など)
- アクセス可能でない場合、他のモジュールからインポートできるかどうかを確認する
- インポートできる場合、該当のファイルをインポートするための最も適切なパスを計算する
- 型参照を表現するための新しいノード(ASTの一部)を生成する。これは型注釈としてその型を使用するためのコードとなる
- 生成された型参照ノードを出力して生成されたコード(型注釈)を実際のTypeScriptファイルに書き出す
このように型注釈がない場合はゴールであるResult型を探すためにいくつかのステップを踏む必要があり、コンパイルに多少の時間がかかることがわかります。
一方で戻り値に型注釈をつけた場合のコンパイル結果は以下のようになります。
// bar.ts
import { Result, makeRequest } from './foo';
export function doStuff(): Promise<Result> {
return makeRequest();
}
// bar.d.ts
import { Result } from './foo';
export declare function doStuff(): Promise<Result>;
bar.d.ts
ファイルにimport { Result } from "./foo";
が追加されています。bar.ts
で元から型のインポートを行っているため、型注釈がない場合のインポート先を探す一連の流れが省かれます。
以上のことから、パフォーマンス向上のためにはできるだけ型注釈をつけるのが良さそうです。
ただ、型推論はとても便利な機能なので全てのコードに対して明示的に型を指定する必要はないですが、コードに遅い部分があった場合は型注釈をつけることを試してみるといいということが書かれています。
Type inference is very convenient, so there's no need to do this universally - however, it can be a useful thing to try if you've identified a slow section of your code.
ユニオン型よりも基本型を使用する
TypeScriptではユニオン型を使用して複数の型を一つの方にまとめることができます。
let numberOfHappy: number | undefined;
ユニオン型を使用すると、それぞれの型が異なる可能性があるためコンパイラは各型をチェックする必要があります。
例えば、以下のprintSchedule
関数では引数が渡されるたびにユニオン型の各要素の比較の処理が走ります。
interface WeekdaySchedule {
day: 'Monday' | 'Tuesday' | 'Wednesday' | 'Thursday' | 'Friday';
wake: Time;
startWork: Time;
endWork: Time;
sleep: Time;
}
interface WeekendSchedule {
day: 'Saturday' | 'Sunday';
wake: Time;
familyMeal: Time;
sleep: Time;
}
declare function printSchedule(schedule: WeekdaySchedule | WeekendSchedule);
比較する型が2つしかない場合はそこまでコストはかからないですが、12個以上になるとコンパイル速度に大きな差が生じます。
例えば、大きなユニオン型同士を交差(合成)させるときを考えます。ユニオン型の各要素から重複するプロパティを削除する場合は各要素を2つずつ比較する必要があり、比較する要素が増えれば増えるほどコストはn^2ずつ増加していきます。
この問題を解決するための手段として、ユニオン型ではなく部分型(subtype
)を使用する方法があります。一番最初の型宣言にはtypeよりもinterfaceを使う部分で登場しました。
先ほどの例で言うと、部分型を使って以下のように修正できます。
interface Schedule {
day:
| 'Monday'
| 'Tuesday'
| 'Wednesday'
| 'Thursday'
| 'Friday'
| 'Saturday'
| 'Sunday';
wake: Time;
sleep: Time;
}
interface WeekdaySchedule extends Schedule {
day: 'Monday' | 'Tuesday' | 'Wednesday' | 'Thursday' | 'Friday';
startWork: Time;
endWork: Time;
}
interface WeekendSchedule extends Schedule {
day: 'Saturday' | 'Sunday';
familyMeal: Time;
}
const printSchedule = (schedule: Schedule) => {
console.log(schedule);
};
const weekday: WeekdaySchedule = {
day: 'Monday',
wake: { hour: 7, minute: 0 },
startWork: { hour: 9, minute: 0 },
endWork: { hour: 17, minute: 0 },
sleep: { hour: 23, minute: 0 },
};
// 引数にはScheduleの部分型であるWeekdayScheduleを渡せる
printSchedule(weekday);
Schedule
型を新たに作成し、WeekdayScheduleやWeekendScheduleの型でこれを継承させています。そしてprintSchedule
関数の引数でSchedule
を指定しています。こうすることで、ユニオン型と比べSchedule
と言う一つの型のみのチェックとすることができます。
このようにユニオン型ではなく部分型を使用して一つの型の参照(基本型)にすることでパフォーマンスコストを抑えることができます。
複雑な型は名前付けをする
例えば以下のような複数の条件分岐によって戻り値の型が定義されている関数があるとします。
interface SomeType<T> {
foo<U>(
x: U
): U extends TypeA<T>
? ProcessTypeA<U, T>
: U extends TypeB<T>
? ProcessTypeB<U, T>
: U extends TypeC<T>
? ProcessTypeC<U, T>
: U;
}
この書き方の場合、関数fooが実行されるたびに戻り値の条件型を検証する必要があります。また、例えばSomeType型の複数のインスタンスを比較することになった際にはfooの戻り値の型構造を再度検証する必要があります。 上記のような複雑な条件分岐を持つ型は、型の比較が行われるたびに型が検証されるため、パフォーマンスに影響を与える可能性があります。
このコストを抑える方法として、型エイリアスを使用して戻り値の型に名前付けを行うと良いです。
type FooResult<U, T> =
U extends TypeA<T>
? ProcessTypeA<U, T>
: U extends TypeB<T>
? ProcessTypeB<U, T>
: U extends TypeC<T>
? ProcessTypeC<U, T>
: U;
interface SomeType<T> {
foo<U>(x: U): FooResult<U, T>;
}
こうすることで一度型の検証が行われるとコンパイラはキャッシュし、もし同じ型が出現した際にはキャッシュを利用してパフォーマンスを上げることができます。
終わりに
TypeScriptのWikiを参考にTypeScriptをより速くする方法をいくつか紹介しました。 本ドキュメントにもありますが、紹介した方法のメリットデメリットはもちろんあるため、ケースバイケースでより適切な方法を選択をすると良いと思います!
また、本記事では紹介していませんが、ドキュメントの後半には他にもTypeScriptのパフォーマンスに関する内容が書かれているため是非参照してみてください😊
Footnotes
-
GoogleのTypeScriptスタイルガイドライン:Prefer interfaces over type literal aliases ↩